EMG総合法律事務所: 不動産賃貸借Q&A

建物明渡し完了までにかかる期間や費用について


 Q 建物明渡しの訴訟に関する一般的なことは、本やインターネット等を見れば、ある程度分かるのですが、実際に(具体的に)建物明渡しが完了するまでに、どの位の期間や費用がかかるのでしょうか?


 A 建物明渡し完了までの期間や費用(実費)は正にケースバイケースとなります。そこで、いくつかのケースを挙げて、それぞれのケースにおける期間や費用を説明したいと思います。なお、下記のケースは全て実際の事件がベースになっていますが、具体的事件(関係者)が特定されないよう相当程度抽象化しています。


<ケース1>

債務名義(判決)に基づく建物明渡強制執行(断行)により引渡しを実現したケース
訴訟提起→債務名義(判決)→強制執行申立→明渡催告→建物明渡の断行

12月下旬 大家さんから弁護士に建物の明渡し等の訴訟依頼
弁護士着手金210,000円
12月中旬 賃借人と連帯保証人を共同被告として訴訟提起
収入印紙及び予納郵便切手代として約24,000円(事案によって異なります)
1月下旬  第1回口頭弁論期日
2月初旬 判決言渡し
2月中旬
判決送達証明申請 収入印紙代150円
執行文付与申請  収入印紙代300円
2月下旬 建物明渡強制執行の申立て 予納金65,000円(東京地方裁判所の場合)
3月初旬 建物明渡しの催告
(内容)
執行官、立会人、カギの業者(解錠技術者)、執行補助業者、債権者及び弁護士が現場に臨場。債務者方は施錠されていたので、解錠技術者が解錠して執行官等が室内に立ち入り状況確認。強制執行実施予定日等が記載された公示書・催告書を室内に掲示。
(この日の実費)
執行補助業者及び解錠技術者の費用約45,000円(事案や業者によって異なります)。
なお、後日、執行補助業者から断行実施の見積り(遺留品保管や廃棄処分費用含む)として約880,000円の見積書が提出される。ただし、建物の広さ約47uで、動産類が非常に多い場合。


3月下旬 強制執行(明渡しの断行)。建物引渡し完了。
弁護士報酬金210,000円
なお、遺留品(動産)については、一旦倉庫に保管し債務者の引取りを待ち、債務者が引き取らない場合には売却ないし廃棄処分予定とされる。
4月上旬 債務者による遺留品引取り完了
本件では、倉庫に保管してある遺留品(動産)全部を債務者が引き取ったため、廃棄処分等の必要がなくなり、断行実施見積金額約880,000円のうち約220,000円が返金(精算)され、執行補助業者の費用は約660,000円で確定。

ケース1のまとめ
弁護士に訴訟委任してから現実の建物明渡し完了までの期間 約100日
弁護士費用合計420,000円。
実費合計約750,000円(印紙、郵便切手、交通費、執行予納金、執行補助業者の費用)。

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<ケース2>

債務名義に基づく建物明渡強制執行(断行)によって解決した場合
訴訟提起→債務名義(和解調書)→建物明渡強制執行申立→建物明渡の断行

12月下旬 大家さんから弁護士に、建物明渡し等の訴訟依頼。
弁護士着手金210,000円
1月初旬 入居者と連帯保証人を共同被告として訴訟を提起。
収入印紙代及び予納郵券代として約13,000円(事案によって異なります)
2月初旬  第1回口頭弁論期日
2月中旬 弁論準備期日
2月下旬 弁論準備期日
入居者は3月末日までに建物を明け渡すことを約束(裁判上の和解成立)。
3月末日 入居者は退去せず。
4月初め 和解調書正本の送達証明  収入印紙代150円
和解調書正本に執行文付与 収入印紙代300円
4月中旬 建物明渡強制執行の申立て 予納金65,000円(東京地方裁判所の場合)
4月中旬 建物明渡しの催告
(内容)
執行官1名、立会人1名、執行補助業者1名、及び、弁護士1名が現場に臨場。
建物内に公示書を貼り、強制執行実施日を指定告知。
この日の実費…執行補助業者の費用 21,000円(事案や業者によって異なります)
4月下旬 執行補助業者から本件建物明渡断行に係る費用の見積もり提出
(例) ワンルーム(約13.5u)の場合
見積金額約300,000円(これには廃棄処分費用が含まれていない)。ちなみに、断行に係る費用は、事案によってはもちろん、業者によっても異なります。また、見積書の書き方も業者によって異なります。
この件では実際に約300,000円かかりました。
5月中旬 建物明渡しの断行。明渡し(大家さんへの引渡し)完了。
なお、残置動産類は一旦倉庫に保管して後日処分 処分費用約90,000円
弁護士報酬金210,000円

ケース2のまとめ
弁護士に訴訟委任してから現実の建物明渡し完了までの期間  約150日
弁護士費用合計420,000円。
実費合計約500,000円。

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<ケース3>

債務名義(判決)に基づく建物明渡強制執行(断行)によって解決した場合
訴訟提起→判決→建物明渡強制執行申立→建物明渡の断行

4月上旬 大家さんから弁護士に、建物明渡請求訴訟の依頼。
弁護士着手金210,000円
4月上旬 契約解除通知(内容証明郵便)
内容証明料・郵便料として約1,800円
4月中旬 賃借人と連帯保証人を共同被告として訴訟提起
収入印紙代及び予納郵券代として約11,000円(事案によって異なります)
6月初旬 口頭弁論期日
6月初旬 判決言渡し
6月中旬 判決正本の送達証明    収入印紙代150円
判決正本に執行文付与   収入印紙代300円
6月下旬 建物明渡強制執行申立 予納金65,000円(東京地方裁判所の場合)
7月初旬 建物明渡しの催告
(内容)
執行官1名、立会人1名、執行補助業者1名、及び、弁護士1名が現場に臨場。
建物内に公示書を貼り、強制執行実施日を指定告知。
この日の実費…執行補助業者の費用 21,000円(事案や業者によって異なります)
7月初旬 執行補助業者から本件建物明渡断行に係る費用の見積もり提出
(例)広さ約20uで、家財・動産類が極めて少ない場合。     
見積金額約130,000円
7月中旬 建物明渡しの断行。明渡し(大家さんへの引渡し)完了。
なお、残置動産類は無価値と認定され、即日処分。処分費用約35,000円。
即日処分によって保管費用(倉庫代約16,000円)の支出を免れました。
弁護士報酬金210,000円
事件終了後、予納金65,000円のうち残金約20,000円が還付されました。

ケース3のまとめ
弁護士に訴訟委任してから現実の建物明渡し完了までの期間  約100日
弁護士費用合計420,000円。
実費合計約230,000円

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<ケース4>

債務名義に基づく建物明渡強制執行申立ての後、断行前に入居者が任意に退去した場合
訴訟提起→債務名義(判決)→強制執行申立→断行前に入居者が任意に退去

5月下旬 大家さんから弁護士に、建物明渡し等の訴訟を依頼。
弁護士着手金210,000円
5月末頃 入居者と連帯保証人を共同被告として訴訟提起。
収入印紙代及び予納郵券代として約23,000円(事案によって異なります)
7月初旬 第1回口頭弁論期日
7月中旬 判決言渡し
7月下旬 判決正本の送達証明    印紙代150円(実費)     
判決正本に執行文付与   印紙代300円(実費)
8月初旬 建物明渡の強制執行申立て 予納金65,000円(東京地方裁判所の場合)
8月中旬 建物明渡しの催告
(内容)
執行官1名、立会人1名、カギの業者(解錠技術者)1名、執行補助業者1名、及び、弁護士1名が現場に集合します。
大家さんが合鍵を持っていない場合には鍵の業者を手配しておきます。
なお、入居者がカギを開けてくれない場合(留守の場合を含む)、立会人の立ち会いのもとカギを開錠します。
建物内に公示書を貼り、強制執行実施日を指定告知します。
この日の実費
執行補助者の費用 15,750円(事案や業者によって異なります)
解錠技術者の費用 21,000円(事案や業者によって異なります)
8月中旬 執行補助業者から本件明渡断行に係る費用の見積もり提出。
(例) 一戸建て貸家の場合
見積金額約450,000円(これには倉庫保管費用や廃棄処分費用が含まれていない)。ちなみに、断行に係る費用は、事案によってはもちろん、業者によっても異なります。また、見積書の書き方も業者によって異なります。
この件では、断行を回避できましたので、この費用を払わなくて済みました。
9月初旬 入居者が自発的に退去して建物明渡完了。
同日、建物明渡強制執行申立ての取下げ。これにより予納金65,000円の内金40,000円ほどが戻ってきました。
弁護士報酬金210,000円

ケース4のまとめ
弁護士に訴訟依頼してから建物明渡完了までの期間  約100日
弁護士費用合計420,000円。
実費合計約85,000円。なお、本件で、仮に建物明渡の断行(強制執行)があったとすれば(倉庫保管費用や処分費用も含めると)、少なくとも700,000円はかかったでしょう。

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<ケース5>

訴訟終結後、強制執行申立て前に、入居者が任意に建物を明け渡した場合
訴訟提起→裁判上の和解(訴訟終結)→明渡期限経過→再度交渉→任意の明渡し

10月中旬 大家さんから弁護士に事業用建物明渡し等の訴訟依頼。相手は株式会社。
弁護士着手金210,000円
10月下旬 賃借人(株式会社)と連帯保証人(会社代表者)を共同被告として訴訟を提起。
収入印紙代及び予納郵券代として約25,000円(事案によって異なります)
12月初旬 第1回口頭弁論期日
12月下旬 弁論準備期日 
相手方会社は、1月末日までに建物を明け渡すことを約束(裁判上の和解成立)。訴訟終了。
1月下旬 相手方会社の代理人弁護士から、当方(家主側)弁護士宛に、約束の期限に建物明渡しが不可能である旨の連絡あり。
両弁護士間で交渉が重ねられ、話がまとまる。
2月初旬 相手方から家主に対し、本件建物の引渡し完了。
弁護士報酬金210,000円
なお、相手方は、建物内に存在する物件の所有権を放棄して、その処分を家主に委ねた。

ケース5のまとめ
弁護士依頼から建物明渡完了までに要した期間 約120日
弁護士費用合計420,000円。
実費合計約25,000円。但し、建物明渡し後の、残置物件の処分費用が別途かかりました。

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<ケース6>

訴訟提起後、第1回口頭弁論期日までに、入居者が任意に建物を明け渡した場合
訴訟提起→任意の交渉→建物明渡完了(訴えの取下げ)

1月下旬 大家さんから弁護士に対し、建物明渡し等の訴訟依頼。
弁護士着手金210,000円
1月末頃 入居者と連帯保証人を共同被告として訴訟を提起。
収入印紙代及び予納郵券代として約17,000円(事案によって異なります)
2月中旬 訴状や期日呼出状等が入居者に届き、入居者から弁護士宛に電話が入る。
弁護士と入居者との間で、建物明渡しと未払賃料支払いについて交渉。度重なる交渉の結果、入居者は建物を明け渡すとともに未払賃料全額を支払うことを約束する。弁護士は、入居者が約束どおり建物明渡等を履行した場合には、本件訴えを全部取り下げることを約束する。
2月末頃 入居者は約束どおり、建物を明け渡すとともに未払賃料全額を支払う。
弁護士は、本件訴えを全部取り下げて解決。
弁護士報酬金210,000円

ケース6のまとめ
弁護士に訴訟依頼してから建物明渡完了までの期間  約35日
弁護士費用合計420,000円。
実費合計約17,000円。

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<ケース7>

大家さんが既に債務名義(判決)を取得されていた場合
建物明渡しの強制執行申立て→断行前に入居者が任意に建物を明渡して完了

3月上旬 大家さんは既に債務名義(判決)を取得していたが、事情により、建物明渡しの強制執行のみを当事務所弁護士に依頼。
3月上旬 建物明渡しの強制執行申立て
弁護士手数料210,000円
予納金65,000円
3月中旬 建物明渡しの催告
(内容)
執行官、立会人、施行補助業者、債権者(大家さん)及び債権者代理人(弁護士)が現場に臨場。大家さんが合鍵を持っていたため、その鍵を使って室内に立入り占有状況を確認。強制執行実施予定日等が記載された公示書や催告書を室内に掲示。
この日の実費  執行補助業者の費用 21,000円
3月下旬 入居者から弁護士宛に連絡が入り、建物明渡しについて交渉。
入居者は、建物を任意に明け渡すことを約束。
3月下旬 約束どおり建物明渡しが完了。同日、建物明渡しの強制執行申立てを取下げ。
申立て取下げにより、予納金のうち金40,000円ほどが戻ってきました。

ケース7のまとめ
弁護士に建物明渡強制執行を依頼してから建物明渡完了までの期間  約20日
弁護士費用合計210,000円
実費合計約46,000円

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<ケース8>

債務名義(判決)に基づく建物明渡強制執行申立後、債務者が任意に退去して、明渡催告期日当日に建物引渡しが完了したケース
訴訟提起→判決→建物明渡強制執行申立→(任意退去)→明渡催告期日(引渡し完了)

12月上旬 大家さんは弁護士に滞納家賃督促を依頼
弁護士督促着手金10,500円
12月上旬 賃借人と連帯保証人に対して、催告兼解除通知(内容証明郵便)発送
交渉。賃借人は支払いを約束
内容証明料・郵便料として約3,000円(相手方数や枚数によって異なります)
2月下旬 約束どおりの入金がなかったため、大家さんから弁護士に訴訟委任
賃借人と連帯保証人を共同被告として訴訟提起
弁護士訴訟着手金210,000円
収入印紙代及び予納郵券代として約18,000円(事案によって異なります)
4月中旬 第1回口頭弁論期日
5月初旬 第2回口頭弁論期日
5月下旬 判決言渡し
判決正本送達証明 収入印紙代300円(但し2名分)
判決正本に執行文付与 収入印紙代300円
6月中旬 建物明渡しの強制執行申立
予納金60,000円(東京地方裁判所立川支部の場合)
7月初旬 建物明渡しの催告期日
(内容)
執行官1名、立会人1名、執行補助業者1名、解錠技術者1名、債権者(大家さん)1名及び債権者代理人弁護士1名が現場に臨場。
建物が施錠されていたため、解錠して執行。
執行官による占有関係調査。
家財道具類は全て搬出されており、その他の動産(目的外動産)は無価値と認定され、直ちに債権者への建物引渡しが完了。鍵を交換。
執行補助業者の費用 21,000円(事案や業者によって異なります)
鍵交換費用等31,500円(事案や業者によって異なります)
なお、事件終了後、予納金60,000円のうち残金約35,000円が還付されました。

建物明渡し弁護士報酬金210,000円

ケース8のまとめ
弁護士に訴訟委任してから現実の建物明渡し完了までの期間  約140日
弁護士費用合計430,500円(内容証明督促含む)。
実費合計約100,000円(鍵交換費用含む)

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