FP・弁護士・税理士・不動産鑑定士 専門家集団が斬る賃貸住宅市場
<第65回 定期借家契約の損害金規定>
定期満了後の不法占拠は損害金請求可能
賃料2倍も消費者契約法触れず
――特約なければ通常は賃料相当額
契約・満了時の
書面記載事項
本誌12月14日号の20面で、オーナー様の空室対策として定期借家契約の応用ケースが紹介されていました。例えば、空室が多数出ているときには思い切って値下げした賃料で1年間の定期借家契約を締結し、その期間終了の際には通常の賃料に戻して新たに契約し直すというケースです。
その筆者が言うように、「期間満了で退去する入居者が出ることも十分考えられますが、現実問題として一定期間住み慣れたところを引き払うことは、相当な労力を必要としますので、そのまま再契約する可能性は高いと思われます。」
ただ、賃借人がオーナーの考える通常の賃料で再契約してくれるとは限りません。話し合っても平行線のままで再契約してくれないような場合、結局、オーナーとしては、定期借家契約が終了したことを理由に、建物の明け渡しを求めることになるでしょう。定期借家契約であろうと、相手が任意に退去してくれない場合には裁判等の法的手続きで解決せざるを得ません。
一応、あらためて定期借家契約の留意事項について確認しておきましょう。
<定期借家契約を締結する際の留意事項>
@ 必ず書面で契約を締結する(借地借家法38条1項)。
A 契約書とは別に、賃貸人から賃借人に対し事前に説明文書を交付して、定期借家契約である旨(契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了すること)を説明する(借地借家法38条2項)。
B 契約期間の始期と終期を明確にする。
<定期借家契約終了の際の留意事項>
@ 契約期間が一年以上の定期借家契約を終了させるためには期間の満了の一年前から六月前までの間に賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知する(借地借家法38条4項本文参照)
A 仮に、六月前までの間に通知しなかった場合でも、契約期間満了までに通知すれば、その通知日から六月の期間経過によって、定期借家契約を終了させることができる(借地借家法38条4項但書参照)。
明渡しまで
請求の対象
定期借家契約の終了が認められれば、賃借人は当然ながら建物を明け渡さなければならず、また、契約終了後建物明渡しまでの損害金も支払わなければなりません。
契約終了後建物明渡しまでの損害金については、何の特約もない場合、賃料相当額となります。紹介されている応用ケースについてみると、賃料相当額がいくらなのかについて争いになる可能性があります。
そこで、定期借家契約終了後建物明渡しまでの損害金の規定も明確に設けておくべきでしょう。
この点、定期借家契約が終了した場合における賃料倍額の約定明渡遅延損害金規定が、消費者契約法9条1号や同法10条によって無効になるかどうかが問題となった裁判例(東京地裁平成20年12月24日判決)を紹介しておきます。
この裁判では、結論として約定の損害金規定の有効性を認めました。裁判所は、まず、消費者契約法9条1号は消費者契約の解除に伴う損害賠償の予定又は違約金を定める条項に関する規定であって、解除以外の終了の場合には同号の適用はない旨判示し、また、「賃借人は賃貸借契約の終了と同時に賃貸借の目的物を返還すべき義務を負い、賃借人がこれを任意に履行しない場合、賃貸人は強制執行手続によってその返還を受けることになるが、債務名義がなければこれを得るために相当の時間と費用をかけて訴訟手続等をする必要があり、強制執行手続自体にも時間と費用を要するところ、必ずしも後にこれらの費用全部を確実に回収できるわけではない。
また、賃料及び管理費は目的物の使用収益の対価及び実費であるが、賃貸人は、賃借人が契約終了と同時に目的物を返還すべき当然の義務を果たさない場合に備えておく必要があるところ、その場合に賃借人が従前の対価等以上の支払をしなければならないという経済的不利益を予定すれば、それは上記義務の履行の誘引となるものであり、しかも賃借人が上記義務を履行すれば不利益は現実化しないのであるから、そのような予定は賃借人の利益を一方的に害するものではなく、合理性があるといえる。」などといった理由をいくつか挙げて、問題となった規定は「信義誠実の原則に反し、被告らの利益を一方的に害するものといえないから、消費者契約法10条によって無効とすべきものではない。」と判示しました。
(著者プロフィール)
弁護士 平松英樹氏
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1-14-5土屋ビル4階)、EMG有限責任事業組合、首都圏マンション管理士会などに所属。
(「全国賃貸住宅新聞」2009年12月21日・28日合併号掲載)
|