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FP・弁護士・税理士・不動産鑑定士 専門家集団が斬る賃貸住宅市場
<第62回 2種類の“滞納”について>


「賃料」と「明け渡しまでの損害金」は別扱い

家賃滞納の時効は5年で成立
――間際の場合はすみやかに催告、訴訟提訴


遅延損害金や
消滅時効に違い


建物賃貸人(大家さん)として頭が痛い問題として家賃の滞納問題があります。賃借人が契約どおりに家賃を支払わない場合、通常は契約を解除して建物を明け渡してもらうことになりますが、賃借人の多くは、滞納家賃を支払わないまま退去していきます。

大家さんとしては悪質入居者が自発的に退去してくれたことに安堵し、滞納家賃の回収については半ば諦めるということが多いようです。

今回は、このような場合の滞納家賃(金銭債権)の回収という問題に焦点を当てて、居住用建物賃貸借を前提に検討してみましょう。

1 請求金員

まず、@賃貸借契約終了までの賃貸借契約に基づく賃料と、A契約終了から建物明渡しまでの間の損害金(目的物返還債務の履行遅滞に基づく損害賠償金)とは、本来区別しなければなりません。

@は賃料なのですが、Aは賃料相当損害金(または約定による賃料倍額損害金など)と呼ばれます。

大家さんの多くは@とAの違いをあまり意識されておりませんが、厳密には@とAは異なってきます。

例えば、@については遅延損害金(例えば約定の遅延損害金、約定がなければ民法所定の年5分の割合による遅延損害金)が付加されますが、Aについてはそのような遅延損害金は付加されません。

また、消滅時効についても、Aについては通常の債権の消滅時効(民法167条)の問題となりますが、@については後述するような短期消滅時効(民法169条)の適用があります。

2 請求の相手方

前記請求金員については、賃借人に対するほか、保証人に対しても請求することができます。一般的には、大家さんと保証人とは連帯保証契約を結んでいますので、大家さんとしては主債務者たる賃借人に請求することなく、連帯保証人のみに対して請求することも可能です(民法454条、民法452条)。もちろん、賃借人のみ、または、賃借人と連帯保証人の両者同時に請求することも可能です。

時効の「中断」
事項には注意


3 家賃の消滅時効について

ほとんどの建物賃貸借契約に基づく家賃の支払いは毎月払いとされています。毎月払いの家賃については民法169条(定期給付債権の短期消滅時効)が適用されます。つまり家賃の請求について大家さんが5年間行使しなかったとき、相手方が時効を援用すれば時効により消滅してしまいます。

なお時効を援用するかどうかは相手方の自由です。

4 時効の中断事由

「請求」「差押え、仮差押え又は仮処分」「承認」があれば時効は中断します(民法147条)。注意しなければならないのは、例えば内容証明郵便による請求書を出していたとしても、それだけでは時効中断の効力を生じないということです。内容証明郵便による請求は、民法153条に定める「催告」に該当しますので、「六箇月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法若しくは家事審判法による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない」のです。

具体的に言うと、例えば家賃支払期限から5年が経過する直前(例えば4年11ヶ月目)に催告をなし、それから六箇月以内(例えば5年4ヶ月目)に訴訟提起すれば、催告(4年11ヶ月目)の時効中断効が認められます。

これに対し、5年経過する直前(例えば4年11ヶ月目)に催告をなし、それから六箇月以内に再度催告したとしても4年11ヶ月目の催告の時効中断効は認められません。催告の時効中断効については民法153条に定めるとおりですから注意が必要です。

強制執行しても
回収不能の可能性


5 債権回収の限界

大家さん(債権者)の請求にもかかわらず、相手方が任意に金銭を支払わない場合、最終的には強制執行により金銭債権を回収することになります。

強制執行するためには、「確定判決」「仮執行の宣言を付した判決」「仮執行の宣言を付した支払督促」「執行証書」等のいわゆる債務名義(民事執行法22条参照)が必要となります。もっとも、債務名義を取得したとしても、債務者に財産がなければ、現実的に債権を回収することは困難です。大家さん(債権者)の苦労が報われないも少なくありません。

このような事情が、滞納家賃の回収について半ば諦める大家さんが多いことの理由の一つとなっています。



(著者プロフィール)
弁護士 平松英樹氏
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1-14-5土屋ビル4階)、EMG有限責任事業組合、首都圏マンション管理士会などに所属。

(「全国賃貸住宅新聞」2009年11月9日号掲載)

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