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<第56回 借家人からの賃料減額請求>


賃貸人が負う「年1割の利息」リスク


本誌7月27日号では、建物賃料相場の下落傾向について触れています。建物賃料相場下落の話題に関し、賃貸人として気になることの一つに、借家人からの賃料減額請求(借地借家法32条)があります。

賃料増減額請求については本誌平成21年2月9日号でも述べていますが、今回はあらためて借家人からの賃料減額請求と賃貸人の対応について考えてみましょう。

1 建物賃料増減額請求の法律上の根拠とその趣旨

建物の賃料増減額請求の根拠条文は借地借家法32条1項本文です。

長期的継続的な借家関係において、一旦契約で決められた賃料もその後の経済事情の変動等によって不相当となり、従前の賃料のままだと当事者にとって酷となるような場合も生じ得ます。そのような場合、公平の観点から賃料の増額または減額を請求することが認められているのです。

ちなみに、普通借家契約の場合は、借家人からの賃料減額請求権を排除することはできません(借地借家法32条1項但書の反対解釈)。これに対し、定期借家契約の場合は特約があれば借家人からの賃料減額請求権を排除することが可能です(借地借家法38条7項)。

2 借家人からの賃料減額請求と賃貸人の対応

ここで、借家人からの賃料減額請求について事例をもとに考えてみましょう。

例えば、契約上の賃料が50万円であるのに対し、借家人が、賃料40万円が相当であると主張して減額を請求してきたとしましょう。ちなみに、賃料減額請求は、その意思表示が賃貸人へ到達したときに効力が生じます。もちろん、意思表示到達後の一定の時期からの減額を請求することも可能です。

(1)当事者間の協議

借家人からの賃料減額請求の後、借家人と賃貸人が協議して、お互いが納得するような額を合意すれば一件落着です。

しかし、通常賃貸人としては従前の賃料が相当であると考えているでしょうから、当事者間の協議によって円満に減額の合意に達することは少ないでしょう。

(2)民事調停申立て

そうすると、次に借家人が取る手続きとしては、民事調停法24条の2に基づく調停申立てがあります。なお、借地借家法32条に基づく賃料増減額請求事件については、訴訟を提起する前に、調停を申し立てなければなりません(民事調停法24条の2第1項)。

この調停は、裁判官のほか調停委員と呼ばれる方が複数関与して、当事者間の合意を成立させるべく話し合いが進められていきます。そして、調停において当事者間の合意が成立すれば、調停成立で一件落着です。しかし、当事者が互いの主張を譲らないような場合には合意成立に至らず、結局、調停不成立で終わってしまうでしょう。

(3)訴訟提起

調停が不成立になると、借家人としては、賃料減額請求の訴訟を提起することができます。この訴訟において、最終的には裁判所が判決という形で決着させてくれます。つまり、判決によって相当賃料の額が明確になります。ちなみに、相当賃料の額については、当該訴訟における不動産鑑定の結果が強く反映される傾向があります。不動産鑑定に関する話は、不動産鑑定士担当の回に譲ることにしましょう。

3 賃貸人が受け取る賃料とその後の精算

では、相当賃料の額が確定するまでの間、賃貸人は、借家人に対しいくらの賃料を請求できるのでしょうか。この点に関しては借地借家法32条3項が定めています。

前記事例をあてはめて考えてみると、まず、賃料減額請求を受けた賃貸人は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、賃貸人が相当と認める額の賃料を(例えば従前の賃料50万円を相当と考えるのであれば50万円を、仮に48万円を相当と考えるのであれば48万円を)請求することができます。ただし、その後(数か月後または数年後)裁判が確定した場合においては、それまでに賃貸人が受け取った額が、裁判所によって正当とされた賃料額を超えるときは、その超過額に受領の時から年1割の利息をプラスして返還しなければなりません。つまり、賃貸人としてはこの「年1割の利息」の支払いリスクも考慮しておかなければならないということです。



(著者プロフィール)
弁護士 平松英樹氏
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1-14-5土屋ビル4階)、EMG有限責任事業組合、首都圏マンション管理士会などに所属。

(「全国賃貸住宅新聞」2009年8月10日号掲載)

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