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<第53回 高齢者の財産管理制度>


任意後見制度で事前的措置が可能
迅速なのは委任契約か信託、公正証書要らず柔軟な委任に対応


本誌6月15日号では高齢者の財産管理について述べています。高齢者であっても自分の財産を自由に管理できるのが原則です。ただし、高齢によって判断能力・精神的能力に衰えがある場合、その本人が自由に財産を管理できるとすると、かえって本人の利益を害することにもつながります。今回は、前回の続編として、高齢者の財産管理のための制度について考えてみましょう。

1 民法上の成年後見制度

民法は、判断能力・精神的能力に問題がある人を保護するため、「成年後見」制度、「保佐」制度、「補助」制度を設けています。これら三つの制度を総称して「成年後見制度」と言うことにします。それぞれ、一定の場合に、家庭裁判所によって「成年後見人」「保佐人」「補助人」が選任されます。そして、保護される立場の人(本人)を「成年被後見人」「被保佐人」「被補助人」と呼びます。

@精神上の障害により事理を弁識する能力を「欠く常況にある者」(民法7条)が成年被後見人、Aその能力が「著しく不十分である者」(民法11条)が被保佐人、Bその能力が「不十分である者」(民法15条)が被補助人ということになります。

成年後見人は、成年被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について成年被後見人を代理する代理権を有することになります(民法859条)。ちなみに保佐人や補助人については、それぞれ家庭裁判所の審判によって本人(被保佐人や被補助人)のために特定の法律行為の代理権が付与されることになります(民法876条の4、民法876条の9)。

2 任意後見制度

民法上の成年後見制度は、すでに判断能力・精神的能力に問題がある人を保護するための制度あり、いわば事後的措置と言えます。

これに対し、任意後見制度(「任意後見契約に関する法律」に基づく制度)は、本人が、将来の判断能力・精神的能力の衰えに備えて、予め、受任者に一定の事務の代理権を付与する委任契約を結んでおき、実際に判断能力が不十分な状況になったときに、家庭裁判所の関与(任意後見法2条・4条)のもと契約の効力を発生させる制度です。つまり、本人が、将来のために任意後見契約を結んでおく制度ですので、いわば事前的措置と言うことができます。もちろん、この制度は任意後見法で定める手続・内容に従います。たとえば、任意後見契約は公正証書によってしなければなりません(任意後見法3条)。また、任意後見契約における任意後見人の職務は法律行為の代理ということになります。そのため単なる事実行為を委託しようとする場合には、次に述べる準委任契約で対応することになるでしょう。

3 委任契約・準委任契約

高齢者の財産管理については、当事者の契約に基づく委任(民法643条)ないし準委任(民法656条)も考えられます。すなわち、高齢者(本人)が、一定の事項(法律行為ないし事実行為)の処理を他人に委任するという方法も考えられます。もちろん、この契約締結の際には、本人に判断能力が具わっていることが前提です。ちなみに、この契約は公正証書など必要ありませんし、迅速、柔軟に幅広い事項を委任することが可能です。

しかしながら、単なる私法上の契約に過ぎませんので、家庭裁判所の関与も予定されておらず、社会的信用も確立されておりません。登記制度もありません。したがって、実務的には様々な問題が生じます。

そこで、この契約と前述の任意後見制度を併用する(併存させる)という方法も考えられるでしょう。

4 信託

さいごに信託について簡単に触れておきましょう。例えば、高齢者Aさんが、将来の自分の精神的能力の衰えに備え、不動産の管理運用をBに委託し、自分はそこから得られる利益(金銭)を継続的に(自分が死亡するまで)受け取りたいと考えたとしましょう。このような場合、Aを委託者、Bを受託者(なお、不動産の所有権はBに移転します)、A本人を受益者として、信託契約(自益信託)を結ぶ方法も考えられます。信託に関しては信託法や信託業法等の規律に従うことになりますが、信託目的を明確にしておけば、Aさんが考えていることも実現できるでしょう。



(著者プロフィール)
弁護士 平松英樹氏
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1-14-5土屋ビル4階)、EMG有限責任事業組合、首都圏マンション管理士会などに所属。

(「全国賃貸住宅新聞」2009年6月22日号掲載)

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