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<第50回 普通借家契約の立退料>
明確な算定式 存在せず
正当事由を補完する役割、賃借人への“補償”金額化
本誌3月23日号において、定期借家契約(借地借家法38条)をメインテーマとし、定期借家契約と借地借家法28条の関係について触れ、定期借家契約においては原則として立退料など関係ないことを説明しました。
今回は普通借家契約における借地借家法28条の問題、とりわけ「立退料」という問題について検討してみましょう。
1 更新拒絶通知や解約申入れの要件としての「正当事由」
実務上、大抵の普通借家契約は期間を定めて契約されています。
そのような期間の定めがある契約の更新について、当事者間で更新合意があればもちろんそれに従って更新されます(合意更新)。もし、賃貸人が期間満了で契約を終了させたいというのであれば、「期間の満了の一年前から六月前までの間」に賃借人に対して「更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知」(以下「更新拒絶通知」と言います。)をしなければなりません。この更新拒絶通知をしないとき、又は通知をしても「期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかった」ときは、法定更新(従前の契約と同一の条件で、期間の定めがないもの)となってしまいます(借地借家法26条1項、2項)。
期間の定めがない契約の場合、賃貸人が契約を終了させたいというのであれば、借地借家法27条1項に基づき解約申入れをすることになります。なお、借地借家法27条1項は「建物の賃貸人が賃貸借の解約の申入れをした場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から六月を経過することによって終了する」と規定していますが、期間経過後賃借人が使用を継続する場合において、遅滞なく異議を述べなかったときは終了しません(借地借家法27条2項が同法26条2項を準用)
ここで、重要なのは、賃貸人からの更新拒絶通知や解約申入れには正当事由が必要であること、すなわち借地借家法28条が「建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」と定めていることです。
以下、借地借家法28条における「財産上の給付」のことを「立退料」と言い換えて説明します。
2 立退料の算定について
借地借家法28条の解釈上、立退料提供は不可欠の要件というわけではありません。立退料提供なく正当事由が認められた裁判例もたしかに存在します(東京地裁昭和60年2月8日判決や東京地裁平成1年8月28日判決)。しかし、現実的には立退料の提供なく正当事由が具備されることは極めて稀なので、ほとんどの場合、正当事由を補完するための立退料という話になります。
難しいのは立退料の額の算定です。当事者双方の話し合いで立退料の額(もちろんゼロでも構いません)を決めればそれに従います。しかし、通常、賃借人側は高額の立退料を要求するでしょうし、賃貸人側は低額の立退料で済ませたいでしょうから、当事者双方の話し合いではなかなか解決しません。
ちなみに、立退料の額について一義的に明確な算定式は存在しません。東京高裁昭和50年4月22日判決は、「金額の決定は、賃貸借契約成立の時期および内容、その後における建物利用関係、解約申入当時における双方の事情を綜合比較考量して裁判所がその裁量によって自由に決定しうる性質のもの」と言っています。
立退料の意義について、あえて大雑把に説明するとすれば、@賃借人が立退きによって被る事実上の利益の補償、A経済上の利益の補償、B移転費用等の補償ということになるでしょう。
ある裁判例(東京地裁平成19年8月29日判決や東京高裁平成12年3月23日判決)では、賃借人の建物使用の必要性が住居とすることに尽きている場合の立退料について、「引越料その他の移転実費と転居後の賃料と現賃料の差額の1、2年程度の範囲内の金額が、移転のための資金の一部を補填するものとして認められるべきものである」と述べています。あくまで当該事案における判断基準に過ぎませんがご参考まで。
(著者プロフィール)
弁護士 平松英樹氏
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1-14-5土屋ビル4階)、EMG有限責任事業組合、首都圏マンション管理士会などに所属。
(「全国賃貸住宅新聞」2009年5月11日号掲載)
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