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<定期借家契約のメリット>
退去に正当事由・立退き料不要
終了半年前までに文書告知、1年未満の契約なら義務なし
現在、借地・借家に関する特別法として借地借家法(平成4年8月1日施行)が存在します。それまでの「建物保護ニ関スル法律」、「借地法」及び「借家法」が統合された形になっています。その後、平成12年3月1日施行の「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」により定期借家権制度が導入されました。ただ、定期借家契約については、一般的な家主さん、借主さんにとっては馴染みが薄いようです。
そこで、今回は定期借家契約について考えてみましょう。
普通借家契約の更新拒絶には正当事由が必要
ご承知のように、普通の建物賃貸借契約(普通借家契約)においても、契約期間が定められています。ただし、貸主として、契約期間満了を理由に契約を終了させるためには、正当事由(借地借家法28条)を具備した更新拒絶通知(借地借家法26条1項)が必要となってきます。正当事由がない限りは契約が更新されることになります。裁判実務上、正当事由についてはなかなか認めてもらえません。
例えば、貸主として「自分の子供が大学に進学するので、今まで賃貸に出していた貸室に自分の子供を住まわせたい。丁度、契約期間が満了するので、今の借主に建物明渡しを求めたい。」と考えたとしても、このような事情だけでは普通借家契約の更新拒絶の正当事由には当たりません。場合によっては、正当事由を補完するための立退料等が必要になるかもしれません(借地借家法28条参照)。
普通借家契約の場合、契約期間満了を理由に契約を終了させることは現実的には難しいと言えるでしょう。
定期借家契約の終了に正当事由は不要
そもそも、貸主として一定期間のみの賃貸借を予定しているであれば、はじめから定期借家契約を結んでおくべきでしょう。定期借家契約は普通借家契約と異なり、契約の更新がなく、正当事由や立退料(借地借家法28条参照)なども関係ありません。定期借家契約であれば、原則として契約期間満了によって契約は終了するのです。
定期借家契約締結の際の注意事項
定期借家契約を締結する際には、次のようなことに注意しなければなりません。
@ 必ず書面で定期借家契約を締結する(借地借家法38条1項)。
A 契約書とは別に、賃貸人から賃借人に対し事前に説明文書を交付して、定期借家契約である旨(契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了すること)を説明する(借地借家法38条2項)。
B 契約期間の始期と終期を明確にする。例えば「子供が大学に入学するまで」というのでは終期が明確とは言い難いので注意。
定期借家契約終了の際の注意事項
契約期間が一年未満の定期借家契約であれば終了通知(借地借家法38条4項)は不要ですが、契約期間が一年以上の定期借家契約を終了させるためには、賃貸人は、期間の満了の一年前から六月前までの間に賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければなりません(借地借家法38条4項本文)。
仮に、六月前までの間に通知し忘れた場合でも、すぐに(遅くとも契約期間満了までに)通知しておくべきでしょう。そうすれば、その通知日から六月の期間経過によって、定期借家契約を終了させることができます(借地借家法38条4項但書)。
もし契約期間満了までにこの通知をしなかった場合、契約期間満了後の賃借人の建物使用は期間の定めのない普通借家権に基づくものと解されてしまう可能性があり、そうすると賃貸人が解約を申し入れる場合には「正当事由」が必要とされてしまいかねません(借地借家法27条、28条)。
定期借家契約は特約により賃料減額請求を排除できる
ところで、普通借家契約の場合は特約によっても賃借人からの賃料減額請求権を排除できないと解されていますが、定期借家契約の場合は特約があれば賃借人からの賃料減額請求権を排除することができます。
定期借家契約は更新がないため再契約の手間がかかる
定期借家契約は更新ということがありませんので、同一賃借人と引き続き定期借家契約を結びたい場合でも、新たに定期借家契約を締結しなければなりません。前後の契約はあくまでも別の契約となります。そのため、前の契約に連帯保証人が付いている場合でも、新たな契約ではあらためて連帯保証人を付ける必要が出てきます。
(著者プロフィール)
弁護士 平松英樹氏
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1-14-5土屋ビル4階)、EMG有限責任事業組合、首都圏マンション管理士会などに所属。
(「全国賃貸住宅新聞」2009年3月23日号掲載)
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