FP・弁護士・税理士・不動産鑑定士 専門家集団が斬る賃貸住宅市場
<家賃改定をめぐる法的問題>
まずは簡易裁判所での調停で解決
調停不調なら裁判所に訴訟提起
賃料確定まで
従来金額が継続
前回(本誌1月26日号)においては、今春の賃貸マーケット動向について検討し、その中で契約条件交渉(家賃減額交渉等)について触れています。
家賃減額(改定)交渉については、当事者(貸主と借主)間で話がまとまれば、もちろん自由に改定できるのですが、現実的には、そう簡単にまとまりません。そこで、今回は、家賃減額(又は増額)について話がまとまらない場合、法的にどうなるのか考えてみましょう。
1 家賃増減額請求の根拠
借地借家法32条1項本文には、「建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。」と定められています。
すなわち、法律上、一定の要件のもとに家賃の増減額請求が認められています。長期的、継続的な借家関係において、一度約定された家賃が経済事情の変動等により不相当となることもありますので、そのようなときに公平の観点から、その変化に応じて家賃の増減を請求できるようにしたのです。
なお、同条項に基づく増減額請求は、原則として、相手方へ意思表示が到達したときに効力が生じます。
2 賃借人からの賃料減額請求
ここでは、賃借人から賃料減額請求がなされたという前提で話を進めましょう。
事例として、契約賃料が100万円であるところ、賃借人から賃貸人に対して、80万円への賃料減額請求がなされたというケースで考えてみましょう。
そもそも、借地借家法32条に基づき認められる賃料(以下、「相当賃料」と言います。)の額については、条文を読んでもはっきりしません。そのため、当事者間で相当賃料について議論しても水掛け論になることが多いでしょう。
そのようなとき、当事者は、簡易裁判所に調停を申し立てることができます。賃料増減額の争いについては、いきなり訴訟を提起するのではなく、まずは調停手続によって自主的解決を図ることになります(調停前置主義)。調停が不調に終わったようなときは、訴訟を提起することも可能です。訴訟において、最終的には裁判所が相当賃料を確定します。
ところで、相当賃料が確定するまで、賃貸人は自分が相当と認める額の賃料を請求することができます(借地借家法32条3項本文)ので、一般的には契約賃料100万円を相当と考えてその額を請求するのでしょう。賃貸人が契約賃料100万円を請求しているのに、賃借人が80万円しか支払わないような場合には、賃借人の契約違反(債務不履行)という問題が生じます。
なお、最終的に相当賃料額が確定し、それまでに賃貸人が支払を受けた額と確定した相当賃料額に差額(超過)が生じている場合には、賃貸人は賃借人に対し、その超過額に受領の時から年1割の利息を付けて返還しなければなりません(借地借家法32条3項但書)。
従来金額でも
債務不履行に
3 賃貸人からの賃料増額請求
賃貸人からの賃料増額請求についてもみておきましょう。
賃貸人も借地借家法32条1項本文の要件のもと、賃料増額請求権を行使でき、また、前述の手続き(調停、訴訟)を取ることができます。
では、契約賃料が100万円であるとして、賃貸人が120万円への賃料増額請求を行使した場合、賃借人としてはいくら支払うべきでしょうか。
この点、賃借人として従前の賃料である100万円を相当と認めて100万円を支払っていれば、原則として契約違反(債務不履行)の問題は生じません。
しかし、賃借人が従前の賃料を主観的に相当と認めていないときには、従前の賃料と同額を支払っていても責任を問われることがあります。
なお、地代増額請求の事案ですが、賃借人が従前の賃料(地代)を支払っていたとしても「賃借人が自らの支払額が公租公課の額を下回ることを知っていたときには、賃借人が右の額を主観的に相当と認めていたとしても、特段の事情のない限り、債務の本旨に従った履行をしたということはできない。」と判示した判例(最高裁平成8年7月12日判決)もありますので注意が必要です。
なお、裁判で確定した相当家賃と支払額に不足があれば、賃借人は、賃貸人に対し、その不足額に年1割の支払期後の利息を付けて支払わなければなりません(借地借家法32条2項但書)。
(著者プロフィール)
弁護士 平松英樹氏
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1-14-5土屋ビル4階)、EMG有限責任事業組合、首都圏マンション管理士会などに所属。
(「全国賃貸住宅新聞」2009年2月9日号掲載)
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