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<第41回 賃貸人が抱えるリスク>


「募集宣伝内容とかい離」 賃料1/3減額判決
カビ被害の損害賠償責任も


誇張宣伝は
リスクあり


前回(本紙12月8日号18面)は、賃貸建物の不具合や瑕疵に伴う建物賃貸人のリスクについて述べています。今回は、一つの裁判例(東京地裁平成6年8月22日判決)を取り上げて、実際に裁判所がどのような判断を下しているのか、少し詳しくみてみましょう。

1 東京地裁平成6年8月22日判決について

(1)事案の概要

賃貸人(原告)が、賃借人(被告)に対し、延滞賃料や契約解除以降建物明渡し済みに至るまでの約定使用損害金及び原状回復費用等の合計金として六七八万円超の支払いを請求したのに対し、被告が抗弁(反論)として賃料減額やカビ被害に基づく損害賠償債権との相殺等を主張したという事案です。ちなみに、この判決においては、被告の賃料減額や相殺の主張等の一部を認め、最終的な原告の請求認容額は四八七万円程になっています。

(2)裁判所の判断

この事案において、裁判所は次のように判示しています。

@ 「原告は、・・・賃貸マンションを、『光と風、そして美しいロケーション。ゆとりを満喫するクオリティライフ』とのキャッチフレーズのもと、段状型住宅なので眺望が良いほか、日照、通風など自然の恵みも最大限に得られ、室内には爽やかな光と風が溢れること、暮らしの質を物語る格調高いゲートがお迎えすること、テレビモニター付ホームセキュリティシステムを採用していること等の内容の宣伝をして、借り手を募集していたことが認められる。もちろんこのような宣伝にはある程度は歌い文句という側面のあることは世の常識ではあるが、このような宣伝は、・・・比較的高額の賃料設定をしていることの理由を示すことを一つの目的としており、借り手は、賃料が高めであることをも一つの要素として、その宣伝内容の真実性を判断し、質の高い住環境が得られることを期待して入居するものであるから、その実体にその宣伝内容とかけ離れた点があり、当該賃貸マンションの提供する住環境に、それ程高額の賃料を支払う程の価値がないことが判明すれば、賃料額はその実体にみあった額に減額されるべきである。」

A 「被告入居後の本件建物及びその周辺の住環境は、原告が宣伝した・・・それとは程遠いものというべく、前記のとおり、本件建物の賃料については、その特殊事情のため、その賃料は減額を免れない。その減額の程度は、減額すべき要因が、住環境の快適さという点に関するものであり、その要因によって受ける影響には個人差のあること、カビによる被害などは、賃借人においてもつと防止に努力すれば、より軽減された可能性のあることを考慮し、賃料の約三分の一に当たる七万三〇〇〇円とするのが相当である。」

B 「本件建物に生じたカビは、本件建物の敷地や構造等に起因して発生したものであり、被告が努力すればおよそ発生が妨げられたものとはいえないから、賃貸借契約上賃借物件に隠れた瑕疵によって生じた損害として、原告においてこれを賠償すべきである。しかし、本件における被害の程度や被害額は必ずしも明らかではなく、被告側において、虫干しをする等もつと注意をすればそれ程の被害が生じなかったのではないかと考えられることを考慮すれば、これによって被告が被った損害の額は、主張額の約三分の一に当たる五〇万七三〇〇円と認めるのが相当である。」

2 建物賃貸人のリスクについて(総論的まとめ)

ここで、賃貸建物の不具合や瑕疵に伴う建物賃貸人のリスクについて総論的にまとめておきましょう。

(1)例えば、前記裁判例のように、借り手を募集する際の宣伝内容と実体とがかけ離れている場合、賃料額はその実体にみあった額に減額される可能性があります。

(2)一般論として、賃貸建物の不具合により、賃借人がその建物を十分に使用収益できない場合、賃貸人は賃借人の使用収益の減少に応じて損害賠償義務を負うことになります(東京地裁平成16年12月21日判決等)。場合によっては、今回取り上げた裁判例のように賃料減額請求が認められる可能性もあります。

(3)一般論として、賃貸建物の不具合や瑕疵により賃借人等に被害(損害)が生じた場合、賃貸人は損害賠償義務を負うことになります。この損害賠償義務については、被害者の損害が大きければ、賠償額も高額になってしまいますので注意が必要です。例えば、阪神・淡路大震災の事例ですが、賃貸人に約一億二九〇〇万円の支払いが命じられたものもあります(神戸地裁平成11年9月20日判決)。



(著者プロフィール)
弁護士 平松英樹氏
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1-14-5土屋ビル4階)、EMG有限責任事業組合、首都圏マンション管理士会などに所属。

(「全国賃貸住宅新聞」2008年12月22日号掲載)

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