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<第34回 震災火災におけるオーナーの民事責任>
適切な維持管理を怠れば責任追及
無視できない消防法の改正
問われる防災対策
前回(本誌8月25日号において)は、平成13年9月に発生した新宿歌舞伎町ビル火災のビル所有会社オーナーらに対する刑事責任(業務上過失致死傷罪)や消防法改正による住宅用火災報知機の設置義務化、その他、賃貸建物オーナーの防災対策について簡単に触れました。そこで、今回は、震災・火災における賃貸建物オーナーの民事責任(損害賠償責任等)についてもう少し考えてみましょう。
1 一般論
建物の設置又は保存に瑕疵があり(建物が通常有すべき安全性を有しておらず)、他人に損害を与えた場合には、所有者としての責任(民法717条の土地工作物責任)を負うことになります。
また、建物賃貸借契約関係にあれば、賃貸人は、賃借人に対し、賃貸物件を正常な状態で使用させる契約上の義務があります。その付随義務として、賃貸物件の故障等によって賃借人の財産等に損害を生じさせないよう適切に維持管理(点検保守)すべき義務があります。つまり、賃貸人が行うべき適切な維持管理を怠ったため、賃借人に損害を生じさせたような場合、賃貸人は、契約上の責任(債務不履行責任)を負うことになります。
自然災害でも追求される瑕疵
2 震災の場合の責任
阪神・淡路大震災によって建物が倒壊し、建物1階居住者が死傷した事案において、建物所有者の土地工作物責任(損害賠償義務)を認めた判決もあります(神戸地裁平成11年9月20日判決)。この判決では、建物が通常有すべき安全性を有していなかった、建物設置に瑕疵があった、とされました。また、この裁判では、仮に建物が通常有すべき安全性を備えていたとしてもその建物は倒壊したのではないか、不可抗力ではないか、という点も問題となりましたが、裁判所は、次のように述べています。
すなわち、「仮に建築当時の基準により通常有すべき安全性を備えていたとすれば、その倒壊の状況は、壁の倒れる順序・方向、建物倒壊までの時間等の点で本件の実際の倒壊状況と同様であったとまで推認することはできず、実際の施工の不備の点を考慮すると、むしろ大いに異なるものとなっていたと考えるのが自然であって、・・・本件地震という不可抗力によるものとはいえず、本件建物自体の設置の瑕疵と想定外の揺れの本件地震とが、競合してその原因となっているもの」と述べています。
直接原因なくてもオーナーの責任に
3 火災の場合の責任
火災発生原因については様々ですが、ここでは、@建物設備の不具合が出火原因の火災によって建物入居者に被害が発生したケース、A入居者の失火が原因の火災によって、他の部屋の入居者に被害が発生したケース、B第三者の放火が原因の火災によって建物入居者に被害が発生したケースをもとに、賃貸オーナーの責任を考えてみましょう。
@のケースにおいては、その建物設備の不具合が「建物の設置保存の瑕疵」にあたるのか、その建物設備を誰が占有管理しているのか、などが問題になるでしょう。
裁判例としては、天井裏に設置された建物と一体をなす電気配線部分が、化学的・電気的要因で熱を発し着火して火災になり、賃借人が賃借建物を使用できなくなった事案で、建物所有者の土地工作物責任(損害賠償義務)が認められたもの(東京地裁平成12年5月26日判決)もあります。
また、@のケースにおいては、場合によっては、賃貸人の維持管理義務違反として、契約責任(債務不履行に基づく損害賠償義務)が認められることもあるでしょう。
ABのケースにおいては、元々の出火原因は、建物入居者や第三者の行為にあります。本来、火災の原因を作った建物入居者や第三者が責任追及されてしかるべきです(なお、失火責任法による免責については別の機会に述べたいと思います)。
法令遵守で防げる損害
しかしながら、ABのようなケースでも、賃貸オーナーの責任が発生する可能性があります。たとえば、建物が通常有すべき安全性を備えておらずそれが原因で被害を拡大させてしまった場合や、適切な維持管理を行っておらずそれが原因で被害を拡大させてしまったような場合には、その拡大被害(損害)について、建物オーナーの責任が発生する可能性があります。
仮に、消防法等を無視した管理(消防法等の基準に適合しない管理)をしていれば、建物オーナーの責任が発生する可能性は高まるでしょう。その意味でも、消防法等の改正は無視できないのです。
(著者プロフィール)
弁護士 平松英樹氏
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1-14-5土屋ビル4階)、EMG有限責任事業組合、首都圏マンション管理士会などに所属。
(「全国賃貸住宅新聞」2008年9月8日号掲載)
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