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<第32回 近隣迷惑行為への対応>


迷惑行為の放置は大家にも責任が波及する 
賃貸人の債務不履行という問題に


近隣迷惑行為で契約を解除も

前回(本誌7月14日号)は、建物賃借人(入居者)の各種迷惑行為について、総論的に考えてみました。今回は、賃貸共同住宅における近隣迷惑行為(賃借人から他の賃借人への迷惑行為)への大家さん(賃貸人)の対応について、法的に考えてみましょう。

最近は、建物賃貸借契約書の中に、近隣の迷惑となるような行為を禁止する特約条項が入っているものが少なくありません。仮にそのような特約条項が入っていなかったとしても、「賃借人は他の賃借人など近隣の迷惑となる行為をしてはならない義務を賃貸人に対し負っている」と解されています(東京高裁昭和61年10月28日判決)。したがって、賃借人の迷惑行為の程度が著しく、賃貸人と当該賃借人との信頼関係が破壊されているような場合には、賃貸人は当該賃借人との賃貸借契約を解除することもできます。

改善回復義務は賃貸人にある

近隣迷惑行為については、一般に、被害を受けている人(賃借人)も黙っていません。被害を受けている賃借人は、大家さん(賃貸人)に対して、「どうにかして欲しい。止めさせて欲しい。」と申し入れてくるでしょう。

このような申し入れがあると、大家さん(賃貸人)としても、放置することはできません。賃貸人と賃借人との間には建物賃貸借契約関係があり、賃貸人は賃借人に対して建物の用法(例えば居住用)に適した状態で使用収益させる義務があるからです。したがって、建物使用収益に適しない状態にあるとすれば、賃貸人は、それを改善回復する義務があるのです。

放置は義務違反、適切な対応を

もし、不良賃借人の迷惑行為が一向に止まず、他の賃借人の建物使用収益が阻害され続けているような場合には、賃貸人は、当該不良賃借人との賃貸借契約を解除して建物明渡しを求めることを検討すべきです。

仮に、賃貸人が、不良賃借人の迷惑行為を放置していれば、被害を受けている賃借人に対する義務(賃貸人として使用収益させる義務)違反と評価されることもあります。

参考裁判例として、大阪地裁平成元年4月13日判決をご紹介しましょう。

この裁判例は、市営住宅の二〇一号室に居住していた人(原告)が、三〇一号室居住者から生活妨害行為を受けたため他へ転居したことについて、加害者(三〇一号室居住者)ではなく、賃貸人である「市」を相手(被告)として、債務不履行に基づく損害賠償の支払いを求めた事案です。この判決の結論は、被告に債務不履行があったとして、金147万円の支払いが命じられました。

判決の要旨は次のとおりです。

「一般に人の住居に使用される建物の賃貸借契約においては、賃貸人は賃借人に対し、いわゆる使用収益させる義務として、賃貸借の目的物である建物を人の住居(ちなみに、これには、当事者がその契約において当然の前提としている一定の平穏さが要求される。)としての円満な使用収益ができる状態(以下「本件状態」という。)で引渡すべき義務がある。のみならず、その状態を維持すべき義務があり、したがって、たとえば第三者の侵害行為により二〇一号室について本件状態が阻害された場合には、右義務に基づいて能う限り右侵害行為を排除して二〇一号室につき本件状態を回復すべき義務があるというべきである。

被告は説得等の方法により右行為をやめようとしなかった妨害者に対し信頼関係の破壊を理由に賃貸借契約を解除のうえ三〇一号室の明渡を求めることができるものというべきである。

被告が原告から度々、三〇一居住者の生活妨害行為につき実情を訴えられるとともにその善処を求められたことから三〇一居住者に対し説得等の方法により右行為をやめさせようとしたものの、三〇一居住者がこれに応じようとしなかったため被告として尽すべき義務は尽したとし、三〇一居住者に対してはさらに前示のとおり前記賃貸借契約を解除のうえ三〇一号室の明渡を求めることもできたのにそのような行為に出なかったことは、被告の原告に対する前記義務についての債務不履行に当るというべきである。」

このように、近隣迷惑行為を放置しておくと、場合によっては、賃貸人の債務不履行という問題に発展しかねません。その意味でも、賃貸人は、近隣迷惑行為に適切に対処しなければならないのです。



(著者プロフィール)
弁護士 平松英樹氏
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1-14-5土屋ビル4階)、EMG有限責任事業組合、首都圏マンション管理士会などに所属。

(「全国賃貸住宅新聞」2008年7月28日号掲載)

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