FP・弁護士・税理士・不動産鑑定士 専門家集団が斬る賃貸住宅市場
<第29回 私道の通行権>
他人私有地の通行には法的根拠必要
自動車の囲繞地通行権認定
私道通行の法的権利
前回(第28回)は、私道(私人が所有する道)に関する総論的な問題を取り上げました。今回は、他人が所有する私道の通行権(法的権利性)について、もう少し考えてみましょう。
1 まず、私道が自分の所有地であれば、自己の所有権に基づく権能として、その私道を使用(通行)できるでしょう。しかし、私道が他人の所有地ということであれば、単純ではありません。実際に通行できているとしても、その通行には法的権利性が認められないこともあります。私道の所有者が黙認していて、ただ単にトラブルにならないだけ、という場合もあるのです。
2 トラブルが発展すると、例えば、私道所有者(Yさん)が、その私道にポール等を設置して、今まで通行していた人(Xさん)の通行を妨害するということがあります(以下、「設例ケース」と言います)。
このようなとき、Xさんの私道通行が法的権利に基づくものであれば、Xさんは、Yさんに対して、妨害排除(ポール等の撤去)を請求できます。
Xさんの法的権利として、(1)袋地所有者の囲繞地通行権、(2)通行地役権、(3)賃貸借・使用貸借契約等に基づく権利、(4)人格権的権利などが考えられます。
(1)袋地所有者の囲繞地通行権(民法210条参照)とは、袋地所有権の内容として、法律上当然に認められる権利です(ちなみに、2005年に民法の条文が現代語化されたことによって、改正前民法210条の「囲繞地」は、「その土地を囲んでいる他の土地」という表現に変わりました)。ところが、法律で当然に認められると言ってみても、その範囲に関して一義的に明らかではありません。たとえば、通行と言っても「人」が通行するのか、「自動車」が通行するのかによって、その範囲(幅)が異なってくるでしょう。
ちなみに、自動車による民法210条通行権に関し、平成18年の最高裁判例は、次のような判断基準を示しました。「民法210条通行権は、その性質上、他の土地の所有者に不利益を与えることから、その通行が認められる場所及び方法は、210条通行権者のために必要にして、他の土地のために損害が最も少ないものでなければならない(民法211条1項)」
「ところで、現代社会においては、自動車による通行を必要とすべき状況が多く見受けられる反面、自動車による通行を認めると、一般に、他の土地から通路としてより多くの土地を割く必要がある上、自動車事故が発生する危険性が生ずることなども否定することができない。したがって、自動車による通行を前提とする210条通行権の成否及びその具体的内容は、他の土地について自動車による通行を認める必要性、周辺の土地の状況、自動車による通行を前提とする210条通行権が認められることにより他の土地の所有者が被る不利益等の諸事情を総合考慮して判断すべきである。」(最高裁平成18年3月16日判決)。
通行地役権の設定は書面契約で
(2)地役権に基づく通行権とは、自分の土地(要役地)の便益のために他人の土地(承役地)を通行すべく、当事者間で契約を結ぶことによって認められる権利(物権)です(民法280条)。契約は、口頭(場合によっては黙示の契約)で足ります。しかし、契約書等の書面がなければ、色んなことでトラブルになる可能性があります。契約(合意)の存否、契約の内容、地役権の範囲(例えば自動車の通行も含むか)などのトラブルを避けるためにも、やはり契約書等の書面は残しておいた方がよいでしょう。
(3)賃貸借や使用貸借契約等に基づく通行権は、当事者の契約によって発生する権利(債権)です。前記(2)の通行地役権は、土地(要役地)の便益のために設定されるものですが、賃貸借や使用貸借契約等に基づく通行権は、そのような限定はなく、たとえば借家人の建物の使用のために設定されることもあります。
(4)その他、設例ケースの私道が建築基準法上の道路であり、Xさんにとって日常生活上不可欠な道路利用であるような場合には、Xさんの通行に人格権的権利が認められる余地があります(東京地裁平成5年6月1日判決、最高裁平成9年12月18日判決)。
単なる慣習では権利性認められず
3 設例ケースにおいて、上記のような法的権利性が認められれば、Xさんは、Yさんに対し、ポール等の撤去を求めることができるでしょう。しかしながら、Xさんがただ単に事実上長年通行してきたこと(慣習上の通行)を根拠に妨害排除(ポールの撤去)を求めても、それが法的に認められることはなかなか難しいと言えます(東京地裁平成5年6月1日判決、東京高裁昭和49年1月23日判決参照)。
(著者プロフィール)
弁護士 平松英樹氏
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1-14-5土屋ビル4階)、EMG有限責任事業組合、首都圏マンション管理士会などに所属。
(「全国賃貸住宅新聞」2008年6月9日号掲載)
|