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<第23回 競売物件の借地権取引>
買い受け人が係争リスク負担
借地人による地代滞納も
物件明細書でトラブル有無確認
このリレー連載において不動産競売手続や借地権について述べてきました。
そこで、今回は、不動産競売手続における借地権(土地賃借権)の問題点について、買受希望者の立場から見てみましょう。
借地上の建物が競売(承継)されると、土地利用権たる借地権も建物に付随して買受人に移転します。もちろん、地主の承諾(または承諾に代わる裁判所の許可)が別途問題となりますが(民法612条、借地借家法20条)。
一応、借地権付建物の売却基準価額は、建物自体の価格に借地権価格を合算したものであると言うことができるでしょう。
仮に、借地権(土地利用権)が存在しなければ、建物が土地上に存続する根拠がなく、建物所有者は、その建物を収去して土地を明け渡さなければなりません。
ところで、実際、借地上の建物の競売事件において、地代が不払いになっていることも少なくありません。建物を差し押さえた債権者は、地代の代払い(民事執行法56条)や第三者弁済(民法474条)が可能ですが、必ずしも代払い(弁済)されるとは限りません。借地人の地代滞納(債務不履行)があれば、それを理由に、地主が借地契約(土地賃貸借契約)を解除することもあるのです。
本来、そのリスク(借地契約解除のリスク)については物件明細書や借地権評価に反映されていることでしょう。借地権の存否に関する係争の原因や係争の進展度、建物収去の可能性等が参酌されて、借地権価格が減価されているはずなのです。
以前の連載記事において、物件明細書等(3点セット)について触れられていましたが、借地権に関する物件明細書等の記載は特に注意すべきです。物件明細書等に借地契約解リスクが適正に反映されている場合には、買受申出人はそのリスクを引き受けなければなりません。例えば、借地権付建物の競落後、代金納付前に敷地の賃貸借契約が解除されたケースにおいて、東京高裁昭和62年12月21日決定は、「たとえ本件建物の買受人による買受申出後に右敷地の賃貸借契約が解除されたとしても、その買受人は、その買受申出の当時から右敷地の賃貸借契約が解除されるおそれのあることを十分に覚悟していたものというべきであるから、・・・売却許可決定の取消しを求めることはできない」と述べています。
では、もし、物件明細書の記載に重大な誤りがあり、借地権の評価(減価)が適正になされていなかった場合はどうなのでしょうか。
この点について、買受申出人(買受人)が保護された事案(裁判例)を二つご紹介しましょう。
(1)一つは、借地権付建物であることを前提に、最高価買受申出をして売却許可決定を受けた買受申出人が、代金納付前に、売却許可決定の取り消しを求めた事案(東京高裁平成11年11月28日決定)です。この事案において、東京高裁は、「本件には、物件明細書の作成及び最低売却価額の決定に重大な誤りがあり」として、売却許可決定を取り消しました(民事執行法71条6号参照)。
(2)もう一つは、買受人が代金を納付した後に、借地権が存在しなかったことが判明した事案です(最高裁平成8年1月26日)。その事案において、最高裁は、「建物に対する強制競売の手続において、建物のために借地権が存在することを前提として建物の評価及び最低売却価額の決定がされ、売却が実施されたことが明らかであるにもかかわらず、実際には建物の買受人が代金を納付した時点において借地権が存在しなかった場合、買受人は、そのために建物買受けの目的を達することができず、かつ、債務者が無資力であるときは、民法568条1項、2項及び566条1項、2項の類推適用により、強制競売による建物の売買契約を解除した上、売却代金の配当を受けた債権者に対し、その代金の返還を請求することができる」と判示しました。
(3)上記二つの事案は、限定的なケースにおいて買受人側が保護(救済)されたものとして参考になります。ただ、その結果の違いは意識しておきましょう。(1)の事案は、買受人側が代金を支払う必要がなくなったのに対し、(2)の事案は、買受人側が一度支払った代金を配当債権者に対し請求しなければならなくなったのです。損害を未然に防ぐことと、損害を現実に回復することでは、かかるる労力・コストが大きく異なります。
今回は、借地権の問題の一部しか取り上げることができませんでしたが、借地権については様々な問題があります。機会があれば、今後も取り上げていきたいと思います。
(著者プロフィール)
弁護士 平松英樹氏
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1-14-5土屋ビル4階)、EMG有限責任事業組合、首都圏マンション管理士会などに所属。
(「全国賃貸住宅新聞」2008年3月10日号掲載)
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