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<第16回 賃貸駐車場のトラブル>


行方不明賃借人の放置車両は強制執行で解決 
車両の勝手な処分は問題あり


裁判費用や手間が貸主の悩み

今回は駐車場賃貸借のトラブル、そのなかでも厄介な放置自動車の撤去について考えてみましょう。

よく、駐車場の貸主さんから、「行方不明の賃借人が長期間放置しているボロボロの自動車を撤去したい。」という相談を受けることがあります。貸主さんとしては、「裁判は時間とお金がかかるので、裁判を経ずに、直ちに放置自動車を処分したい。」というのが本音です。
たしかに、裁判は時間がかかります。また、弁護士に依頼すれば費用も嵩みます。

しかし、貸主さんが、裁判を経ずに賃借人の自動車を勝手に処分したら、後日、賃借人から、責任追及(損害賠償請求等)されることも考えられます。貸主さんとしては、無用なトラブルに巻き込まれないためにも、裁判(民事訴訟、強制執行)を経ておく必要があるのです。
そこで、貸主さん(賃貸人)がご自分で手続き(裁判)を進めることを想定し、幾つかの留意点を述べておきます。

貸主は訴状で契約解除の意思表現

1 契約の解除について

まず、駐車場(土地)の明け渡しを求めるためには、当該駐車場賃貸借契約が終了していなければなりません。相手方(賃借人)の占有権原を失わせておく必要があるのです。そのため、賃貸人は、賃借人に対し、賃料不払いを理由に契約解除の意思表示をすることになります。ただし、賃借人は行方不明なので、契約解除通知を内容証明郵便等で送っても相手方には届きません。

そこで、次に述べる民事訴訟の「訴状」において契約解除の意思表示をすることになります。なお、訴状の送達は「公示送達」により行われますので、解除の意思表示についても到達の効果が生じることになります。

強制執行のために土地明渡し判決を

2 民事訴訟について

賃貸人としては、後述する強制執行(土地明渡執行)を申立てるために、土地明渡しの「判決」を得ておく必要があります。そこで、賃貸人は、賃借人に対し、土地明渡請求訴訟を提起することになります。そして、訴状において、明渡しを求める土地(当該駐車場)を特定しておく必要があります。土地特定のため、通常は、訴状別紙として物件目録、図面を付けることになります。また、この民事訴訟において、未払賃料等(すなわち、契約解除までの未払賃料と契約解除後の使用損害金)も一緒に請求し、その分の判決も得ておきましょう。

なお、前述したように、賃貸借契約終了の効果を生じさせるため、訴状に「契約解除の意思表示をする」旨を記載することになります。

3 訴状の送達について

訴状の送達に関して、原告(賃貸人)は「公示送達の申立」を行うことになります。

公示送達とは、裁判所の掲示板に送達書類の掲示がなされ、その掲示後2週間が経過したとき、書類送達の効力が生じる手続きです。公示送達によれば、相手方が書類を受け取らなくとも送達の効力が生じることになります。

ちなみに、行方不明の相手方が裁判所へ出頭することは考えられませんので、通常は1回の口頭弁論のみで終結し、その後、判決が言い渡されることになります。

車両価値判断は執行官が行う

4 強制執行について

前述の民事訴訟の判決が出たら、その判決に基づいて土地明渡執行を申立てることになります。申立ては、当該土地を管轄する地方裁判所の「執行官」に対してすることになります。

もし、自動車が高価値であれば、自動車強制競売申立てを「地方裁判所」に対してすることになります。しかし、自動車が無価値の場合、強制競売をすることは意味がありません。

ちなみに、賃貸人が勝手に無価値と判断して、勝手に処分してはいけません。無価値かどうかは、土地明渡執行手続きにおいて「執行官」に判断してもらいます。執行官は、土地明渡しの強制執行実施日において、当該土地上の自動車を「無価値」であると宣し、その無価値物の処分を債権者(賃貸人)に委ねるのが一般的です。

そのような手続きを経て、賃貸人は放置自動車を処分することになります。

5 以上のような手続きを経ておけば、賃貸人は、相手方(賃借人)から責任追及される謂われはありません。もし、相手方(賃借人)が見つかったら、前述の民事訴訟の判決(未払賃料等の請求認容判決)に基づいてしっかりと未払賃料等を請求しましょう。



(著者プロフィール)
弁護士 平松英樹氏
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1-14-5土屋ビル4階)、EMG有限責任事業組合、首都圏マンション管理士会などに所属。

(「全国賃貸住宅新聞」2007年11月12日号掲載)

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