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<第14回 賃貸建物所有者の責任>
建物の保存に瑕疵あれば工作物責任
不具合に備えた安全確保が重要
無過失でも損害賠償義務
建物設備の不具合に起因する事故・トラブルは後を絶ちません。そこで、今回は、賃貸建物(共同住宅)設備等の不具合によって事故が発生した場合の賃貸建物所有者(オーナー)の責任について考えてみましょう。
事例1 建物老朽化に伴い外壁が剥落し、落下した外壁によって通行人が怪我をした場合
まず、結論から言うと、建物所有者は工作物責任(民法717条1項)に基づく損害賠償義務を負うことになります。
民法717条1項には、「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する義務を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。」とあります。
建物は、当然「土地の工作物」に含まれます。なお、後述するエレベーター等も「土地の工作物」に含まれます。「瑕疵がある」とは、その物が本来備えるべき性状(安全性)を欠いていることをいいます。老朽化による外壁剥落は、建物の「保存に瑕疵」があったといえます。
そうすると、事例1のケースでは、建物所有者(オーナー)が工作物責任を負うことになります。工作物責任における占有者の責任は「損害の発生を防止するのに必要な注意をしたとき」は免責されるのに対し、所有者の責任は「必要な注意をした」ということでは免責されません。いわゆる無過失責任ということです。その意味で、工作物責任は、所有者にとって非常に重い責任といえます。
このような事故が起きないよう、建物所有者としては適宜外壁補修等を実施し、性状(安全性)を維持すべきでしょう。
事例2 廊下、階段等を清掃する際のワックスや水濡れによって、歩行者が転倒して怪我をした場合
多くの賃貸建物では、建物所有者が委託した専門業者によって、定期的に共用廊下や階段等の清掃が実施されています。これ自体は建物の維持管理上、望ましいことでもあります。しかし、居住者や来訪者が、清掃の際のワックスや水濡れのため滑って転倒し怪我をした場合、建物所有者が責任を負うこともあります。
建物所有者としては、歩行者が足を滑らせないように安全性を確保して清掃作業を実施すべき注意義務があります。この点、油や水が付着して滑りやすくなっていた状況を「保存に瑕疵」があったと認定した裁判例もあります(東京地裁平成13年11月27日判決参照)。
建物保存に瑕疵があったと認定されると、建物所有者は工作物責任(民法717条1項)を負うことになりますので注意が必要です。もちろん、被害者側(転倒者側)に過失があれば過失相殺(民法722条2項)により損害賠償額が減額されることはありますが、とにかく建物所有者としては安全性を確保する方策(例えば、「歩行注意、転倒注意」を告示し歩行者の注意を喚起し、清掃後もワックス等が乾くまでポール等を設置するなどして、安全性に十分配慮すること)を尽くしておくべきでしょう。
事例3 アパートのベランダの手すりが外れ、布団を干していた女性がベランダから転落し怪我をした場合
ベランダ手すりが外れた原因如何では建物所有者の責任が問われます。
例えば、老朽化が原因で手すりが外れたのであれば、建物の「保存に瑕疵」があったと言えるでしょう。そうすると、建物所有者は工作物責任を負うことになります。仮に、アパートのベランダ手すりについて賃借人のみが占有し且つ賃借人が管理義務(維持修繕義務)を負っているのであれば、建物所有者は責任を免れるでしょうが、一般的なアパートを考えると、そのようなケースはほとんどないでしょう。
もちろん、被害者側に過失があれば、過失相殺により賠償額が減額されることはあります。
事例4 共用エレベーターの設備不良に起因し、エレベーター利用者が怪我をした場合
エレベーター等の点検は専門業者(エレベーター点検会社)に委託されているのが通常です。建物所有者からすれば、仮に設備不良があっても容易には知りえないというのが本音でしょう。しかし、工作物責任の場合、所有者は無過失責任を負うとされていますので、仮にエレベーターの設備不良(安全性の欠如)が原因で事故が発生してしまった場合には、所有者としての責任を免れないでしょう。もちろん、被害者側に過失があれば過失相殺はありますし、また、責任あるエレベーター会社等があれば、その会社に求償することは可能です(民法717条3項)。
(著者プロフィール)
弁護士 平松英樹氏
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1-14-5土屋ビル4階)、EMG有限責任事業組合、首都圏マンション管理士会などに所属。
(「全国賃貸住宅新聞」2007年9月24日号掲載)
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