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<第8回 借地権譲渡と譲渡承諾料>


借地権付建物譲渡には地主の承諾必要 
譲渡承諾料は借地権価格の1割


建物と賃借権 一緒に譲渡

今回は、借地上の建物所有者(借地権者)が借地上の建物を第三者へ売買(譲渡)する場合の「地主の承諾」という問題について検討してみましょう。

借地権とは、借地借家法上、建物所有を目的とする地上権または賃借権をいいます。借地権が地上権として設定されている場合には、原則として、地上権者は地主の承諾なく譲渡できます。地上権は物権であるため、債権である賃借権と異なり、自由譲渡性や登記請求権等が認められます。一般的には、地上権の方が、借地権者に有利な反面、借地権設定者(地主)には不利になるといえるでしょう。そのため、地主側にイニシアチブがある借地契約においては賃借権が設定されているのが通常です。

そこで、以下、賃借権が設定された借地上の建物の譲渡についての地主の承諾という問題に絞って検討することとします。

まず、賃借地上の建物(いわゆる借地権付建物)の譲渡は、土地賃借権の譲渡も含んでいます。そのため、借地人は、賃借権譲渡について賃貸人の承諾を得なければなりません(民法612条1項)。これに違反すれば賃貸人は契約を解除することができます(民法612条2項)。標準的な土地賃貸借契約書においても、借地権譲渡は要承諾事項(「あらかじめ賃貸人の書面による承諾を受けなければならない」)として定められていますので、借地人(借地権者)は、地主(借地権設定者)の承諾なく借地権を譲渡することはできません。

そこで、借地人が借地権を譲渡しようとする場合には、地主の承諾が必要であり、そのために、借地人と地主間で任意の交渉が行なわれることになります。

任意の交渉がまとまれば、地主の承諾の証拠として「譲渡承諾書」を、地主から借地人に交付してもらいます。地主が譲渡承諾する代わりに、借地人が地主に譲渡承諾料を支払うのが一般的です。この場合の譲渡承諾料の額については、もちろんケースバイケースですが、東京圏の相場としては借地権価格の10パーセント程度といえるでしょう。

地主承諾に代わる許可求め裁判申立

ところで、客観的な借地権価格は一体どのようにして決まるのでしょうか。この点、不動産鑑定士による鑑定評価手法としては、差額地代還元法、収益還元法、借地権取引事例比較法、借地権割合法などがありますが、一般の人であれば、借地権割合法がなじみやすいと思います。つまり、更地価格(更地としての価格)に借地権割合を乗じて借地価格を求める方法は、一般の人にとっても簡単できるでしょう。更地価格は、路線価や公示価格等を参考にして算出できますし、借地権割合は路線価図(または倍率表)に示されたものを参考にできます。ちなみに、路線価図はインターネット(国税庁ホームページ)でも閲覧できます。

任意交渉による解決のほか、借地権者としては、借地権者を申立人、地主(借地権設定者)を相手方として裁判を求めることもできます。つまり、地主が賃借権譲渡を承諾しない場合、借地権者は、借地非訟事件として、裁判所に、地主の承諾に代わる裁判所の許可を求めることができます(土地賃借権譲渡許可申立、借地借家法19条1項)。裁判所は、この借地権者の申立を許可する場合、通常、付随裁判として「財産上の給付」(いわゆる譲渡承諾料の支払い)を命じています。この場合の譲渡承諾料は裁判所が裁量によって決めますが、一般的には、借地権価格の10パーセント程度を目安に個別の事情によりプラス・マイナスして定められているようです。つまり、借地非訟事件における譲渡承諾料の目安も借地権価格の10パーセント程度といえます。

競売による取得者 裁判申立期間に注意

ちなみに、賃借地上の建物が競売または公売によって第三者(競落人・買受人)の所有になったときも、地主の承諾という問題が生じます。つまり、競落人・買受人は建物の従たる権利として建物と同時に土地賃借権(借地権)も取得しますので、借地権設定者(地主)の承諾を得る必要があります。

この場合、競落人・買受人としては、承諾に代わる裁判所の許可を申し立てることができます(借地借家法20条1項)が、競落人・買受人がする申立は、建物代金納付後2ヶ月以内にしなければなりません(借地借家法20条3項)。この期間を徒過すると、競落人・買受人は、建物を収去して土地を明け渡さなければならない(東京高裁平成17年4月27日判決)こともありますので注意が必要です。



(著者プロフィール)
弁護士 平松英樹氏
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1-14-5土屋ビル4階)、EMG有限責任事業組合、首都圏マンション管理士会などに所属。

(「全国賃貸住宅新聞」2007年6月25日号掲載)

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