FP・弁護士・税理士・不動産鑑定士 専門家集団が斬る賃貸住宅市場
<第2回 保証人の責任と建物明け渡し>
連帯保証人への明け渡し請求は原則不可
信義則により保証責任の制限も
原則として金銭債務のみ
今回は、家賃滞納に関連する連帯保証人の責任や契約解除後の建物明け渡しについて、一般的な大家さんの疑問をもとに、裁判例等を踏まえて検討してみましょう。
Q 契約書上、「連帯保証人は、本契約に基づく一切の債務を負う」と明記されていますが、連帯保証人に対して建物明け渡しを請求することはできますか。
A 裁判例によれば、連帯保証人は借家人に代わって建物を明け渡す義務はないとされています(大阪地裁昭和51年3月12日判決)ので、連帯保証人に対して建物明渡請求をすることはできません。ただし、連帯保証人は、原則として、未払家賃や契約解除後の使用損害金、遅延損害金等の金銭債務につき、借家人と連帯して責任を負うことになりますので、借家人が建物を明け渡さない限り、連帯保証人の債務も増大していきます。
Q 保証人の責任範囲には、原則として、借家人が現実に明け渡すまでの使用損害金も含まれるということですが、例外もあるのでしょうか。
A 信義則(信義誠実の原則)等を理由に保証人の責任が制限されることがあります。例えば、明け渡し執行が容易にできる状況なのに、賃貸人としては保証人から損害金等の支払いを受けた方が得策と考えて使用を継続させていたような場合、増大した損害金を保証人に請求することは信義誠実の原則に反し許されないとした裁判例があります(東京地裁昭和51年7月16日判決)。
Q 更新前の賃貸借契約では連帯保証人と保証契約をきちんと結んでいます。しかし、更新後に関しては、きちんと結んでおりません。このような連帯保証人に対して、更新後の分(未払家賃等)を請求できますか。
A 判例によれば「賃貸借の期間が満了した後における保証責任について格別の定めがされていない場合であっても、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、更新後の賃貸借から生ずる債務についても保証の責めを負う趣旨で保証契約をしたものと解するのが、当事者の通常の合理的意思に合致するというべきである」として、保証人の責任が更新後の契約にも及ぶことを認めています(最高裁平成9年11月13日判決)。したがって、特段の事情(反対の趣旨を伺わせるような事情)がないかぎり、更新後の分(未払家賃等)に関しても連帯保証人に請求できます。
条項があっても占有侵害は違法
Q 賃貸借契約書には、「契約が終了した場合、借家人は即時に建物を明け渡す。契約終了から1月経過後に建物内にある物品について、借家人はこの所有権を放棄し、賃貸人は任意にこれを処分することができる。」と定められています。契約終了から1月経過していますので、裁判手続によらずに、任意に建物内にある物品を処分することは可能でしょうか。
A 借家人が建物を占有しているのに、賃貸人が建物内の物品を勝手に処分することは違法といえます。たとえこのような契約条項があったとしても、借家人の建物に対する占有を侵害することはできません。賃貸人が実力行使して、借家人を建物から追い出すことはできません。また、借家人が建物内の物品を占有しているとき、賃貸人が、その物品を勝手に処分した場合、民事的な責任(不法行為に基づく損害賠償責任)はもちろん、刑事的な責任(窃盗罪等)も問題となります。法的手続を経ないで、自力救済的な行為をする場合には細心の注意が必要です。問題が生じそうな場合には、法的手続をとっておくべきでしょう。
借貸人に対する損害賠償責任も
Q 賃貸人が損害賠償責任を負わされたような裁判例はありますか。
A 例えば、東京高裁平成3年1月29日判決があります。この判決では、賃貸人が搬出許可条項に基づいて搬出したのですが、結果的には違法とされ、不法行為に基づく損害賠償責任として約10万3000円の支払いを命じられています。
Q 賃貸人としては、仮に損害賠償の支払いを命じられても、借家人に対して債権(未払家賃等)がありますのでそれと相殺すればいいのではないでしょうか。
A 民法509条に「債務が不法行為によって生じたときは、その債務者は相殺をもって債権者に対抗することができない」と定められています。この場合の賃貸人は、不法行為に基づく損害賠償の債務者となりますので、賃貸人から相殺することはできません。ちなみに、債権者(この場合の借家人)から相殺することや当事者の合意(相殺契約)によって相殺することは可能です。
(著者プロフィール)
弁護士 平松英樹氏
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1-14-5土屋ビル4階)、EMG有限責任事業組合、首都圏マンション管理士会などに所属。
(「全国賃貸住宅新聞」2007年3月26日号掲載)
|